「生物産業界を担うプロフェッショナル育成」:九州大学大学院生物資源環境科学府

講義情報

ディベート大会総括(コンセプチュアルスキル)

コンセプチュアルスキル講義(5/24-28)のワークとして、競技ディベートを行いました。

異様な盛り上がりの中、生物資源環境科学府学生の底力を見た気がしました。何より、面白かったです。

全力投球した学生諸君のために、番外編として、観戦記や採点結果を公開しようと思います。



なお、講義報告はコースワークのページに掲載しています。


ディベートという語は広義には、何かの問題について賛否両論を論じ合うことを意味します。車を買い替えるべきかどうかを検討したり、アイドル歌手の歌が上手かどうかを言い争うことも含まれます。スピーチ・コミュニケーション学の考え方では、以下のように定義できます。

(1)明確な論題について
(2)肯定・否定の側に立つ参加者が
(3)公正な規則の下で
(4)合理的な議論によって
(5)第三者を説得しようとする過程

ディベートはまた、問題の賛否両論を考慮することによって蓋然的真理(多分そうだろうという答え)を探求し、それを弁論によって伝達し、擁護する過程と見ることもできます。実社会では、議会や法廷での論争が典型的なものです。ビジネスにおける意思決定(新たな商品企画などについて賛否両論を比較検討して企画の採否を決定するような過程)なども、ディベートの一種と考えられます。

学校などで議論の訓練のために行うディベートを教育ディベート(アカデミック・ディベート)と呼び、教育効果を上げるために様々なルールや教育方法が論じられています。日本では主として、アメリカで発達した論理的分析や資料を重視するスタイルが「アカデミック・ディベート」として英語クラブを中心に導入され、日本語でのディベートもこのスタイルを継承しています。


今回は、以下のローカルルールに則って行いました。

ある命題について肯定側チーム(5-6 名)と否定側チーム(5-6 名)に分ける
チームごとに資料収集(課外)
チームディスカッション(立論・反論の論理構築 / 想定問答)(講義内)

試合(講義内)

 肯定側 立論 《命題の論証》・・・6 分(予鈴 5 分) 1-2 人
 否定側 質疑・・・・・・・・・・・・3 分(予鈴 2 分) 1-3 人
 否定側 立論・・・・・・・・・・・・6 分(予鈴 5 分) 1-2 人
 肯定側 質疑・・・・・・・・・・・・3 分(予鈴 2 分) 1-3 人
 否定側 反論・・・・・・・・・・・・4 分(予鈴 3 分) 1-2 人
 肯定側 反論・・・・・・・・・・・・4 分(予鈴 3 分) 1-2 人

 審査結果   《審査員の判断スピーチ》 集計も含めて 5 分

 審査員は、試合のないチームより 4 名とオブザーバー参加の教員 1 名が担当

 攻守交代時間 1 分(チーム合議を行ってもよい)

・スピーチには視覚的資料・配付資料は用いない
・資料(特に数字)はなるべく丸めたものを用いる(完全な正確さは求めない)
・資料の出典は最低限必要
・審査ポイント:論点の分析・証拠資料・推論の論理性・スピーチ構成・口頭伝達
・時間超過は厳しく減点する(各審査員 5 点減点)


論題は、参加学生の投票によって決定した。また、チーム分けは、論題投票および思考力・十の特性調査より行った。それぞれの学生が興味を持った論題に割り当てられるよう、また、思考パターンの異なる学生がチームを組むように配慮した。

価値論題
・日本の国民食と言えば、ラーメン? カレーライス?
・今の日本語は乱れている。

政策論題
・日本の小学校は、英語教育を必修化すべし。
・食料生産における農薬の使用は是か非か。

論題の選択肢として、時代を反映させた「普天間基地は県外に完全移転すべし」「日本政府は、外国人参政権を認めるべし」等も加えていたが、まだ学生それぞれの中で決着がついていないせいか、選択した学生は少数であった。女子学生では「日本史上最大のヒーローは、信長・龍馬のどちらか?」を選択したものが多かった。福山人気か!? 次点は「日本はバイオエタノールの導入をさらに推進すべし」であった。


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ディベート観戦記 (内田・割石記)


第一試合『日本の小学校は英語教育を必修化すべし』
肯定側
Group A 濱野 髙村 三林 塚本 阪本
否定側
Group F 西牟田 月野 渡邊 宇野 門柳


この試合のみ、マイクなしでの試合となった。教室の人数が多かったため、声が後ろの方には聞こえず(特に女性の声が聞こえづらい状況)、肯定側は、トップバッターの立論者・質疑者続けて女性となったことでかなり不利な立場となった。否定側は、立論者のスタートが、大変明瞭であり、おそらく図式化した後に言語化してプレゼンを行っていたのだと思うが、ポイントの挙げ方も分かりやすかった。これは、否定の反論でも同様に整理されたプレゼンであったが、立論の繰り返しとなる部分もあり、やや「最後の一撃」感が少ない印象を持った。対して、肯定側反論では、結論から言うと最終プレゼンでドラマティックな展開となった。肯定側反論者のプレゼン方法は、まず否定側の主張の整理(これが正しかったかどうかは、論じない)を行った上で、その整理内容を否定する。というようなものであり、加えて、本講義で多くの学生の印象に残っているエピソードを挿入する、などといった工夫も見られた。

審査員の感想として、多くが前半戦で否定側の勝利を予想していただけに、この展開に戸惑った様子が伺えた。5 名の審査員のうち 3 名が肯定側の勝利としたが、合計得点は否定側が高かった。審査委員の合議の結果、肯定側反論の「巻き返し」は素晴らしかったが、立論、質疑、反論と流れを持って安定を見せた否定側の勝利という結論になった。非常に僅差であった。



第二試合『食料生産における農薬の使用は是か否か』
肯定側
Group G 井田 山下 東 熊添 龍野 水頭
否定側
Group E 福永 谷 永翁 北村 原田 三浦


この試合では、まず肯定側立論者が二名立った。二名に役割分担があり、先発は「農家」の息子との立場から使用者側からの実務上の問題、どれだけ農薬に頼っているのか。という現状に対する肯定するしかない!ような状況の説明があった。その後、一般的な消費者視点からの肯定理由としての危険性などリスクの問題への誤解や偏見に対する防衛を行った。消費者ニーズにより農薬を使用するという論点を主張しすぎないようの配慮が感じられた。また、質疑では、本来であれば否定側の質疑意図などに注目が当たるところであったが、肯定側応答者の揺らがない回答姿勢が多くの注目を浴びた。

否定側立論も二名おり、前者が統計的な資料が主となりデータを提示しながらの農薬の危険性を述べ、後者が、将来的側面としての危険性を自らの専門でもあった「昆虫」の生態状況を加えながら語った。さすがに生物資源環境科学府の学生たち、といえるほど両者は知識豊富であったが、その知識豊富さが仇となったのか、両者ともに論点をすり合わせることをせずに互いに自分のフィールドへと持っていこうとしていたため、争点がずれたまま、最終的な反論まで持ち越された。

勝敗を分けたのは、否定側のプレゼンに対する「慣れ」であったり、肯定側の焦りから出た時間超過による減点であったが、審査員としては「何が論じられているのか、その専門性の高さ故に分かりづらい」というような意見も出ていた。ただし肯定側は、役割分担の素晴らしさが見られ、否定側は、穏やかな口調やプレゼン能力、そして両者とも情報量の多さについて評価が高かった。時間超過の減点を除いても、点差は僅差であったが否定側の勝利であった。



第三試合
『日本の国民食と言えば、ラーメン?カレーライス?』
肯定側(ラーメン)
Group B 山本 黒木禅 佐藤 黒木俊 續
否定側(カレーライス)
Group D 諸麥 井上 武田 長尾 藤


まず、ラーメン派立論者からの友好的立論、とも言えるプレゼンからスタートした。国民食とは「時代にあった、大衆に親しまれている食べ物」と定義した上で、「親しみ」を「種類」「店舗数」「準備時間」「雑誌数」そして「アンケート結果」などを指標として「ラーメン = 親しまれている食べ物 = 国民食」と論じた。これに対し、カレーライス派は、質疑によってラーメンの親しみはカレーにも当てはまることを確認した上で、立論でラーメン派にはなかった「国民」の定義を「日本で生まれ育ったもの」と追加しながら、「好み」「世代」に着目した指標を追加し、またラーメン派も取り上げたアンケート結果を違う観点で分析するなど、ラーメンと比較してカレーの優位性を述べた。プレゼンでラーメン派になかった「比較」の要素を取り入れた点で、「分かりやすさ」は生まれたが「友好的」という要素は、やや欠けたような印象もある。また、カレーライス派は、立論および反論で、発表中に「動き」を見せ、壇上から降りる、審査員に近づく、身振り手振りなど、プレゼン技法に長けていた。

勝敗を分けたのは、おそらくカレー派反論で出た「ラーメンは鍋と同じ郷土食(地域食)ではないか」という意見だったように思う。ただし、これに関しては新たな論点の提出であると判断した審査員もいたが、審査員合議の中で、ご当地ラーメンの多さこそ国民食である証明の一つとした肯定側の立論に対する反論であるとの理解に落ち着いた。鍋とラーメンは、地域性や種類の豊富さ、などが類似している食べ物であり、ラーメン派立論の「親しみ」に関する指標が崩れた印象を持った。ただし、カレーライス派のプレゼンでグラフの提示などがルール違反であるという声や、ラーメン派反論のスタイルに評価が上がり、得点としては審査員 1 名が大差をつけて「ラーメン」勝利とするなどで点数上は「ラーメン」派の勝利であった。印象(4 名の審査員がカレーの勝利としていた)と得点結果のズレが生じたため、合議となり、結果として「カレーライス」派が勝利した。

追記しておくと、ラーメンが友好的な作戦?に出た「比較をしない」というものは、恐らく審査員に対して両極の判定が出たものと思われる。しかし、ディベートという性質を考えた際、やはり「比較」による優位性を論じて欲しかったように思う。また、カレーライス派は、反論で「ご当地ラーメンと鍋」類似説を導入し、評価を得たが、これに関してもディベートの性質としては「立論」で述べた方がより適切だったと言えよう。この点も審査員が両極の判定をした要因であった。ラーメンかカレーライスかというテーマは、議論に知識を必要としない価値論題であり、小学校のディベートテーマにもなりうるが、大学院生が行うことで「議論の方法」(比較をする必要性など)、「類似性による比較」など様々なことを考えさせる深い討論となった。試合としては大変楽しい、面白いものであった。

蛇足的な話を一つ。本講義を取材に来られていた記者(コピーライター)はどうもラーメン派であったようで、休み時間にラーメン派の学生をつかまえて「なぜ、ご当地ラーメンの紹介から、ラーメン文化論に持っていかなかったんだ」と持論をぶつけていた。大変盛り上がった試合であった。



第四試合
『今の日本語は乱れている』
肯定側
Group H 宮本 和田 吉永 中武 石川
否定側
Group C 徐 門岡 宮崎 鶴留 小池


肯定側立論者は「乱れ=望ましいものが崩れる」という大辞林の定義を前提に、「会話」「文法」それぞれの側面から乱れを肯定した。例示方法として、実際に使用されている言葉の紹介だけでなく、寸劇をとり入れながらのプレゼンが行われ、寸劇のシーンも「面接」や「ラーメン」など現在の審査員に印象に残りやすいテーマを工夫しており、評価が高かった。会話では「相手を不快にさせる」ことを乱れの重要な要素として取り入れ、敬語の間違いなどの指摘も、高評価であった。

これに対して、否定側は、質疑で、乱れの評価が客観的にそうであるか否か、また不快という感情は客観的か否かを問う事で立論を固める作業を行い、「言葉の推移」は、正しさを「感情」で評価してしまいがちな事例を示しながら言葉の流動性を客観的に肯定することから「乱れ」という主観的表現を否定した。肯定側質疑では、主観で判断することに対する重要性、「言葉の乱れ」を 8 割が認めているデータの認知、に努めたが、決定打とはならなかった。しかし、応答する否定側が回答の統一が出来ていないなどのミスもあった。否定側反論では、審査員に対してリラックスさせるようなパフォーマンスを最初に行った後、審議会での審議対象に「言葉の使用方法」がないことを述べ、使用が変化していくことを論じる事自体が「ナンセンス」であり、敢えて述べるとしても「乱れ」とネガティブな評価は否定すべきと論じた。これに対して、肯定側は、主観的とされた「不快な表現」は、相手とのコミュニケーションツールで言語を使う私たちにとっては「乱れ」とし、使用を否定すべきであるという立論との関連性も高い議論で閉めた。否定側が、「乱れ」をネガティブな言葉として表現し、肯定側が「不快」なものを使用しないという「配慮」が前提であるという論法は、審査員にどちらも聞き入れやすい話であり、反論が終わるまでどちらの勝敗も見えない展開であった。

結果として、審査員 5 名中、肯定勝利 2 名、否定勝利 2 名、引き分け 1 名、さらに得点合計も同点となり、合議の結果、引き分けとなった。肯定側、否定側ともに前 3 つの試合を踏まえた創意工夫が見られる良い試合であり、素晴らしい、という声が多く上がった。激戦であったが、後味の爽やかな、学ぶことの多い試合であった。



競技ディベートは、九州大学大学院 言語文化研究院 教授 井上奈良彦先生の指導を得て行った。講義資料は、井上先生によるディベート入門を参考にした。



採点表: 採点表.pdf


相互評価:相互評価(アンケート結果).pdf



講義最終日、東進スクールより取材を受けました。受験生に大学の様子を講義風景を通じて伝えるという趣旨の記事(話題の講義ライブ)です。

TOSHIN TIMES June15. 2010.pdf




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